はじめに:この一言がすべてだった
DX案件が失敗する瞬間は、
だいたい派手じゃない。
エラーも出ない。
怒号も飛ばない。
ただ、
ぽつりと置かれた一言で終わる。
今日の締め
新システムだと
たぶん終わらないです
この言葉が出た瞬間、
プロジェクトは静かに死んだ。
プロジェクトは「正しく」始まった
このDX案件は、
少なくとも書類上は完璧だった。
社長も上司も、
「今度こそちゃんとやろう」と言っていた。
自分も、
「今回は現場も巻き込めている」と思っていた。
思っていただけだった。
経理リーダーという立場
彼女は、
-
現場を回し
-
ミスを拾い
-
締めを守る人
DXプロジェクトでは
一番忙しく、一番発言しづらいポジションだった。
会議では、
いつも最後列。
意見を求められると、
「大丈夫です」と言う。
それが仕事だから。
新システムは「悪くなかった」
正直に言う。
-
機能は揃っていた
-
操作も間違ってはいない
-
設計も理屈は通っている
ただし、
締め日の現実を知らなかった。
締め日という戦場
経理の締め日は、
通常業務とは別世界だ。
-
電話が鳴る
-
質問が飛ぶ
-
例外が噴き出す
-
判断が連続する
そんな中で
新しい操作を思い出す余裕はない。
彼女は何を見ていたか
新システムの画面を見ながら、
彼女はこう計算していたはずだ。
-
この入力に何分かかるか
-
例外が出たらどうなるか
-
誰に確認が必要か
-
何時までに終わらせないといけないか
脳内で、締め作業をシミュレーションしていた。
そして、朝が来た
リリース当日。
朝のオフィスは、
いつもより静かだった。
誰もが
「今日は何かが起きる」
と分かっている空気。
あの一言は、相談だった
彼女は、
怒っていなかった。
責めてもいなかった。
ただ、
事実を伝えに来ただけだった。
今日の締め
新システムだと
たぶん終わらないです
声は小さかった。
語尾も弱かった。
それでも、
現場の結論だった。
「たぶん」に込められた意味
この「たぶん」は、
曖昧じゃない。
-
終わらない可能性が高い
-
でも断言すると角が立つ
-
だから逃げ道を残す
現場が精一杯選んだ表現だ。
その場に流れた沈黙
誰も、すぐに返事ができなかった。
-
上司は言葉を探していた
-
自分は、理解してしまった
-
ベンダーは状況を測っていた
時計の秒針だけが動く。
この時点で詰んでいた理由
DX案件で
締め日に使えないというのは、
致命的だ。
-
今日だけ旧運用
→ 明日も旧運用
→ いつの間にか定着
誰も悪くない。
でも、戻れない。
なぜ彼女は、もっと早く言わなかったのか
言えなかったのではない。
言っていた。
-
操作が多い
-
判断が増える
-
締め日は厳しい
ただ、それらは
「慣れれば大丈夫」
という言葉に吸収されていった。
翻訳されなかった警告
経理リーダーの言葉👇
締め日は厳しい
本当の意味👇
締め日は思考停止状態です
新しいことはできません
誰も翻訳しなかった。
プロジェクトは、その日から形骸化した
-
新システム:参考
-
Excel:本番
-
DX会議:減少
誰も「失敗」と言わない。
ただ、使われない。
この一言が教えてくれたこと
DXの成否は、
一番忙しい人の「たぶん」に出る。
-
強い否定じゃない
-
でも無視すると終わる
今なら、最初に聞く
もし今なら、
最初にこう聞く。
締め日の朝、
この画面を開く余裕ありますか?
YESでなければ、
そのDXはやらない。
供養として、ここに残す
この案件は失敗だった。
でも、
あの一言がなければ
自分は今も同じ失敗を繰り返していた。
DXは
人の限界を
システムで越えようとした瞬間に死ぬ